現代でも有名で、そのユニークな絵を好きな人も多い絵巻、国宝「鳥獣人物戯画」。しかし作者や制作の経緯などは一切不明な絵でもある。走るウサギや相撲をとるカエルで何が描かれようとしていたのか。作成時期とおぼしき日本の中世期の人々の心理を考えると見えてくる、鳥獣戯画の意外な一面。そして「国宝」となるには連続する「奇跡」があった。みんな大好きな鳥獣人物戯画の楽しさ、深さを味わい尽くす。

2021年1月27日放送 歴史秘話ヒストリア「みんな大好き! 国宝 鳥獣人物戯画」 - NHK

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鳥獣人物戯画│世界遺産 栂尾山 高山寺 公式ホームページ

鳥獣人物戯画 - Wikipediaでは甲巻の画像がすべて確認できる。

感想

まずもって4巻構成であることを知らなかった。なんなら国宝であることも(笑)。兎と蛙は知っていたが、猫や狐、なんと別巻には人まで描かれている。人か獣か、こうしてみると楽しげにしている獣たちは現代人よりよほど有意義に時を過ごしているように見えてくる。

だれが、何のために描いたか一切不明なため、360度開かれた国宝(五月女晴恵さん発言?)だと言われており、番組中でもいくつかの仮説が紹介されている。個人的になるほどと感じたのは、子供がターゲットだったという松島雅人さんの説。

作成されたのが平安から鎌倉時代にかけてと言われており、当時、飢饉や疫病といった悪いことはすべて怨霊のせいだと考えられていた。平安時代末期、わずか8歳の安徳天皇が壇ノ浦の戦いで戦死し、その死体は引き上げられることもなかった。とりわけ高い身分の魂がこの世で怨霊になるとされていた時代、安徳天皇の魂を慰めるため、楽しげな雰囲気のある絵巻が作成された、という説である。「遊び」が神をもてなす行為とも捉えられるため、怨霊ともつながり、個人的にはなかなか良い線だと思う。遊びの雰囲気が強いため、室町時代に学び舎だった高山寺では軽んじられていたというのはある意味皮肉だが。

全体的に削ったな、という印象だった。最初は3巻と記録されていたのに4巻となった経緯(見逃した?)とか、動物と人で筆致がかなり異なることとか、賀茂祭の絵で笠の上に兎蛙がいるが他の資料には存在しないのかとか、気になることは結構残った。ただ、作成した意図がわからないことも含めて、謎が存在することは神秘性を助長する。動物の擬人化なんて、当時からすれば物の怪や妖怪の類だと思われやしないかと考えたり、内容自体には怪しさが感じられる。しかし軽妙な筆致で楽しげな様子が描かれており、人々を惑わせる。ハロウィーンの雰囲気に現れるジャック・オ・ランタンといったところか?こういった神秘性は大好物である。

ちなみに番組終盤では、いかにして現代に絵巻が伝えられたかをけっこう大雑把に紹介している。以下要約:正確な時期は不明だが高山寺に保管され、室町時代は他書物に比べて軽んじられていた。高山寺が火事に見舞われた際、水をかけられたと思しき跡があったり等、損傷が激しかったが、ときは江戸時代、徳川家康の孫、東福門院(とうふくもんいん)が気に入り、彼女の支援で修復される。そこから明治時代に移ると幕府の援助がなくなった寺社仏閣は財政難に陥り、貴重な古器を次々と売りに出していた。蜷川式胤(にながわのりたね)が幕府の命を受けて絵巻を重要古物として記録していたことから、明治政府が保護のために絵巻を文化財に指定したことで、今に至る。

最後に

「遊びは神をもてなす」か、良いことを聞いた。