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番組内容
2月下旬に接種が開始できるよう準備が進められている新型コロナウイルスのワクチン。菅総理は『ワクチンは感染対策の決め手となる』と強調している。しかし、ここにきて大きな懸念となっているのがイギリスなどで猛威を振るい、日本でも感染が確認されている変異株の存在だ。この変異株の出現によりコロナ収束へのシナリオはどう変わるのか?ワクチンと変異株を巡る現状と課題を考える。〈ゲスト〉●宮坂昌之(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授)●佐藤昭裕(日本感染症学会専門医)●宮田裕章(慶応義塾大学医学部教授)
内容まとめ
とにかく落合さんの質問回だった。本人曰く素人質問だが、なかなか鋭い質問ばかり。宮田さんらも答えるのに体力を使っていた(笑)。以下、順不同で、記憶を頼りにQ&A形式でまとめていく。
なぜ日本のワクチン接種には時間がかかるのか?
過去に、海外でのみ臨床試験が終了したワクチンを国内で試験せず使用したところ、数十人が亡くなる事態になったことがある。同様に手痛い失敗を厚労省は経験しているため、今回の国外ワクチン(ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ)も日本でステージ3の臨床試験を実施した上で使用する流れになっている。
緊急事態宣言解除は現実的なのか?
解除する、しないの二択ではなく、段階的に解除・緩和していくのが現実的である。イギリス等、中途半端な感染改善状態で制限を解除した結果、制限の効果が帳消しになってしまった事例がある。また、厚労省によるLINE調査では、三密回避の意識は7割超の人が意識できている一方、個人の健康意識(体調が優れない場合に出勤しない等の措置をとる)は5割に満たないことや、テレワーク率が1、2割程度だと低いままであることなど、緊急事態宣言とは別に改善できるところはまだ多い。
ちなみにインフルエンザのようにコロナも対応できて元の生活様式に近い過ごし方ができるようになるのは、最近の論文では10年後らしい。
mRNAワクチンの仕組みは?
ウイルスのスパイクタンパク質(表面のとげとげ)が感染の原因なので、ウイルスからスパイクタンパク質形成指示体(mRNA)を取り出し、それを脂質で包んだものがmRNAワクチン。それを注射するとヒト細胞中にmRNAに対する抗体が作成される。
ワクチン接種のオペレーションは?
ファイザー製の場合、マイナス70度の凍結保存が必要なので、まずは全国の大きな病院(大学病院等)に凍結状態で運搬し、現地で解凍する。解凍後5日間程度は有効性があるので、その間に現地の公民館で接種することになる可能性が高い。モデルナ製は少し高くてマイナス40度で可能。アストラゼネカは日本国内で製造する。
接種は筋肉注射で、上腕に打つ。インスリンのように皮下注射でも問題ない可能性はあるが、治験は上腕筋肉注射に限られているため、それ限定で行われる。日本の場合は医師、もしくは医師立ち会いの本、看護師が打つこともできるが、基本は医師による。また、仮に薬剤師が打つ等になっても、アナフィラキシーに対処するため医師の立ち会いは必要となる。アナフィラキシーは注射後15~30分で発症する可能性が高いため、待機時間が必要となる。
どの程度の人口割合がワクチンを接種するべきか?接種の義務化は検討されないのか?
実行再生産数が2.5程度だとすると、おたふくかぜワクチンのように人口9割以上の接種率は不要で、一般に6割。最近の研究では、当然抗体には個人差があるため、あるいは4割程度でも十分な効果があるかもしれないと言われている。
現在もっともワクチン接種が進んでいるイスラエルでは、人口30%のワクチン接種で、ワクチン接種後の感染率が0.15%であり、全国の感染者数も減少傾向にある。
接種の優先順は、国によって対応が異なるし、それぞれに有効性が考えられる。日本が医療従事者、高齢者、若者の順番だが、国によっては若者を優先している。医療従事者は言わずもがな、高齢者優先の場合、死亡率・重症化率は抑えられるが、人流を考えると感染拡大が抑えられる可能性は低い。一方で若者優先の場合、人流の観点から感染拡大に効果的である。それぞれ一長一短あるが、高齢者の場合はそもそも抗体の形成能力が低いため、副反応も弱くなることが期待される。そこでより広範に知見を安全に積み上げるためにも、高齢者を優先したほうが良いのではないか、というのが宮坂先生の考え。
数億回分のワクチンを確保している、ように報じられているが、それらはすでに製造されているのか?
製造する、ということを約束してもらっているだけ。世界的に見てワクチンは争奪戦の様相を呈しており、需要に供給はまったく追いついていない。日本が確保しているとされるワクチンも、元々は6月中に入手しきる予定だったが、年内に延期されている。
ちなみにワクチン自体のお値段は非公表。
今後のワクチン開発の道筋は?新しい変異株が出てきた場合のオペレーションは?
少なくとも現在のmRNAワクチンは、スパイクタンパク質のマーカー1箇所とかではなく全体のmRNAを利用しているため、多少の変異には既存のワクチンで対応できると考えられる。ワクチンの効果(生成される抗体)が変異株に対して弱くなる可能性はあるが、少なくとも効果がなくなるということはない。後述の人工抗体も開発が進んでおり、世界的な協力体制としてCOVAXファシリティー(新型コロナウイルスのワクチンを共同購入する国際的枠組み)や、世界規模のデータベースが作成されており、ワクチン開発の見通しは決して暗くない。
仮に現在のワクチンをベースに改良型ワクチンを開発した場合に、治験をもう一度最初からするか、あるいは最終ステージのみ(プラセボ群との2重盲検法)か、既存のワクチン群対改良型ワクチン群とするか、現在国際的な枠組みを作成する動きが出ている。とくにプラセボ群はワクチンを接種できないため損をすることになり、市民の協力が得られにくくなるかもしれない。
人工抗体は有効なのか?
現在、アメリカの研究施設では、ウイルスに現行の抗体を与えて人工的に変異株を作成し、それに対する人工抗体の作成が行われている。また、スパイクタンパク質は140種のアミノ酸塩基から成っており、複数のマーカーが存在するが、それぞれに対して有効な人工抗体の開発が進んでいる。一部のマーカーが変異したとしても、残りのマーカーに有効な人工抗体を組み合わせることで変異株に対処することが可能である。
オリンピックは開催できるのか?(佐々木さんがぼそっと聞いていた)
無観客での開催はできる。観客は、変異株が出てきたことで非常に難しいオペレーションが迫られることになった。
全体の感想
非常にためになる議論だった。放送最後のコメント欄では地上波やYouTube放送が切望されていたが、私もそう思う。内容そのままだとお茶の間の人たちはたぶん理解が追いつかないので、そこはコメンテーターやキャスターがうまいことまとめるべきだろうが、噛み砕く必要はない。最後の落合さんのボードメッセージ「素人質問をしよう」とその後の発言として「良くわからないままに頭の中で考えて出した結論を基にして最後に『不安だ』とつぶやく人が多いのは良くない」というのにはものすごく共感した。インフォデミックにワクチン接種が振り回される未来も予想できてしまうのが現状。日本に限らず、だれかが噛み砕いた内容を噛み砕いて人は他人に伝達してしまうので、せめて最初の発信は仔細にまとまった正確な情報を発信することに努めてほしい。
スポーツ選手のワクチン義務化の議論も出てきているが、ステロイド系との相互反応や、ドーピング検査に引っかからないのかとか、そのあたりの最新情報もきいてみたかった。オリンピックはウィズコロナ時代の新スタイルで開催してほしいと思っているので。