正直最初はタイトルに惚れて読んだ気がする。いつ試し読みしたか忘れたが、手元に置いておきたかった作品の1つ。DMMブックスの70%オフクーポンで購入。

SF版ブラックジャックと言われておりそのテーマ自体おもしろいが、時代の流行もネタに入れたり(ex. 入れ替わってる!?のあれ)、ときどきシャープなボケをかましたりで作品的なバラエティにも富んでいる。

惜しむらくは、設定がわかりづらいことと、ほとんど主人公が関係していない小話が多いことかな。個人的にはあと一歩作画力もほしいところだが、須藤のあまり動かない表情とリサの感情表現が生むコントラストは見ていて楽しい。

AI、ロボット、ヒューマノイドの区別は読み進めていくと腹落ちしてくるが、やはりはじめのうちはとっつきづらい。その影響で、作品のメッセージ性が弱る。基本的にオムニバス形式なので前回の理解が次回に引き継ぎにくいのも、この点ではマイナスに働く。ロボットの延長ではなく、ヒューマノイドとして人間と同等の権利を持たせることにどういった意図が作者にあるのか、それをどう読者に伝えたいのか。週刊連載というのもあってか、絵柄も相まって割とあっさりめに各話が終わってしまうように見えるため、他のキャッチーな作品と比べて人気沸騰とはいかないのかも。

結果、好きな人は好きな作品となっている。須藤先生が好きなしょっぱいラーメン屋みたいな……

何巻か忘れたが押井守監督と対談したなかで、アニメ化したいという話があったが、その後進展しなかったのだろうか。最近読んだクジ砂や少女終末旅行などは映像化されたことで視覚的に深みが増して、相互作用で原作も世界観が感覚的に理解しやすくなってよかったのだが、AIの遺電子でもそれを期待したい。なんだかんだタイトルを変えつつ連載は続いているので、いつかアニメ化すると信じている。頼むからこけんな。

以下、なんとなくで印象に残った話の感想を述べる。

第16話 じいちゃんのGちゃん

「自由なロボより、自由な猫のほうが目立たないだろ?」

個人的には強烈な皮肉。ロボットのAIが自由になるほど、人間社会に溶け込むのではなくむしろ排斥される。作中にはロボットとは別にヒューマノイドが存在するが(違いは『第12話 俺の嫁』を参照)、彼らはアシモフ原則が適用されないということだろうか(されない)。

第17話 ホワイトデー

ほんわかした小話。ヒューマノイドのリサと人間の須藤がお互いに人間臭さや性格をコメディカルに表現している。

「旨い不味いでいったら〜」は良い言い回し(リピートするまでがお約束w)。物語が成果物のスパイスとなるのは、ここ最近の「製作者サイドに回ろう」であったり、コミュニティに属するとかにも通ずる。成果主義に傾倒しつつありながら、一方で成果に至る過程まで含めてブランディングする、旨い不味いだけで(01だけで)語れない混沌世界こそおもしろいし、本作もまた違った視点で混沌を表現していておもしろい。

第39話 シックスセンス

「絶対現実感」……私はClubhouseを経験したことはないが、いつかWEEKLY OCHIAIで特集されたとき、clubhouseで音声を聞きながら目の前で議論に参加すると疲労がヤバいと話していた。もしかしてVoiceネイティブ世代かあるいはclubhouseネイティブ世代みたいなものが出てきたら、彼らは子供時分から経験して脳が順応したりするのだろうか。

合わせて、AIが化けたっておかしくないというのは夢がある。まるで電脳コイルの最後みたいでちょい感動。

第41話 ボタン

爆笑したw「賢者ボタン」てwww

第73話 幸福の最大化

2回目の特区「新世界」の話。作者的にも重要な要素の1つなのだろう。UBI(ユニバーサルベーシックインカム)の社会実験も行われている昨今、もっともあり得る未来の1つとして個人的にも興味を持つテーマである。

個人の幸せをAIが定義し、人はAIによって緩やかに指南される。作中では今のところそれが合わない人にのみ焦点を当てているが、自分ならどうだろう。 おもしろいのは、そもそも国からの基礎給付で最低限の暮らしが保証されている点である。それでも人は働き、あるいは特区に入って幸福を希求し続ける。幸せを得るものは幸せを求めるものより不幸となるのか、そもそも幸せは個々人ですら定義できうるのか、色々と考えさせられる。 個人的には、きっと基礎給付で生活しつつ、自分なりに幸せを探すだろう。その結果がどうであれ。